ちょー小咄
a handkerchief



 「・・・・・・ん? なんだろ・・・これ」

 いくらレフーラとはいえ、12月ともなればいいかげん(良い加減?)に寒くなってくる。
 そろそろ衣類の入れ替えをしなければ、と思ったことから
 パリスはめずらしく、自室のタンスの整理をしていたところだった。
 ・・・が、作業をはじめて間もなく、タンスの奥にあった妙なものに手が触れる。
 どうやら、隙間にひっかかっているようだった。
 「よいしょっと」
 奥から引き出されたパリスの手には、一枚の布がついてくる。
 布は丁度ハンカチぐらいの大きさだったが
 その不思議な手触りと見覚えのない模様に
 ふと、首を傾げた。

 どこかで見たことのあるような気もするし、しないでもない。

 その場でしばらく考え込んでみたが、どうにも思い出せなかったので
 諦めてその場にそっと置いた。
 その瞬間。

 ――――――あげるよ、君に。

 懐かしい声が、パリスの胸をくすぐった。 

 ――――――君のために、魔法をかけてあるんだ。

 「・・・・・・・・・・・・あ」

 ――――――けっして、湿ることがないように。

 「・・・・・・タロット、ワークさん・・・」



 ――――――使ってくれるかい?
 (でも、湿らないってことは、お洗濯できないってことじゃないですか)
 ――――――しなくていいってことだよ。パリスってあいかわらず面白いな。
 (汚れたらどうするんですか)
 ――――――汚れないよ。君の心は、一点の曇りもないんだから。



 先ほどまで思い出せなかった場面が、溢れるように蘇ってくる。
 黒い髪、黒い瞳。まじめかと思いきや、冗談やイタズラが好きだったりする、魔法使い。

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ」
 彼とは、決別したはずだった。
 彼が、みんなを――――世界を、裏切ったときから。
 ぽたり、と、パリスの双眸から雫が落ちた。
 布の上に落ちた涙は、すっ、と音も立てずに消えていく。

 思い出とは、どうしてこんなに残酷なのだろう。
 パリスは唇をかんでうつむく。
 時がたてばたつほど鮮やかに、透明になっていく、記憶。

 気がつけば、胸の中は生前の彼でいっぱいだった。

 「・・・どぉして・・・・・・っ」
 そう、どうして。どうして、彼は逝ってしまったのだろう。
 自分の人生を売ってまでして、世界の律に身をゆだねたのだろう。


 ――――――ねぇパリス、使ってほしいんだ。それでね、これを見るたびに・・・

 パリスは、記憶の中の声に導かれるままに、布に視線を落とした。

 ――――――僕を、思い出して。



 もう戻ることのない日々を思い出しながら、パリスはそっと、目を閉じて涙を拭く。
 タロットワークのくれたハンカチは、ほのかに暖かく
 そして・・・

 涙でも消えることのない魔法陣が描かれていた。




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