訪問者1万人突破記念企画

十二国記フリー小説

「八麒麟 U」

※この作品は、小野不由美 氏(原作)・會川昇 氏(脚本) の「十二国記 夢三章」の中の<第一章 八麒麟>をもとにしています。




1.漣極国




 夜の露台の上に、ゆるい風が通り過ぎる。凄絶な光を放つ月が、音も無く雨潦宮を包んでいた。
 「――――廉麟?」
 物憂げに雲海の水面を見つめていた廉麟に、優しく声がかけられた。振り返らなくても誰だかすぐに分かったが、廉麟はゆっくりと身体を回して背後を見る。
 「主上・・・」
 「うかない顔だね」
 「申し訳、ございません」
 予想していた言葉に廉王世卓は微苦笑をうかべ、露台へと歩み寄った。廉麟の隣に立ち、同じように水面を見つめる。
 「蓬山に行ってきてもよかったのだよ」
 どこまでも穏やかな声に、廉麟は視線を伏せてかぶりをふった。
 「・・・いいえ。主上や国の方が大事ですから」
 その言葉に世卓は頷く。視線はそのまま、露台の淵に寄りかかって廉麟に告げた。
 「うん。でも俺も台補が大事だから、そういううかない顔をされると、困るな」
 「主上・・・」
 廉麟は思わず笑みをこぼした。世卓らしい励まし方を嬉しく感じる。
 「私には大事ございません。少々物思いにふけっていただけでございますから、ご安心ください。・・・蓬山の様子に変事あるなら、延台補がお伝えくださるでしょうし」
 そうか、と世卓は波間に視線を止めたまま答えた。
 「俺がもう少し頑張れたら、台補は悲しまないで済むだろうに」
 とんでもない、と廉麟が間髪いれずに、まっすぐな髪をゆする。
 「主上は十分、努力しておいでです」
 「でも、国は安定してない」
 「それは、主上がお作りになるこの国の歴史が、まだ浅いからでございます」
 しばらく沈黙が流れたが、世卓は息をついて身を起こした。
 「じゃあ、今度こういうことがあった時のために、頑張ることにするよ」
 台補には笑っていて欲しいから――――と言って、世卓は初めて顔を廉麟の方に向ける。
 「次回は遠慮しないで行ってきてくれて構わないから、今回は我慢してくれないか?」
 ――――そんなこと。
 月光にふちどられた世卓の顔を見ながら、廉麟はまぶしそうに口を開いた。
 「主上・・・」
 ――――約束してくださるだなんて。
 「楽しみにしておりますわ」
 花が開くように微笑んだ自国の麒麟に、世卓も破顔する。

 その心中で、廉麟の笑顔が見ることが出来て、ここに来てよかった――――と世卓は思った。


 守りたい笑顔があるなら、きっと明日も頑張れる――――。

 すぐ傍にたたずむ廉麟に届かなかった声は、雲海の波に飲まれ、そして、消えていった。





あとがき。

制作時間、1時間。早ッ!!(←私にしては。)
漣コンビは初めてなのですが、意外と書きやすかったです。

書いていて、思っていたより廉麟が好きなことに気づきました。
麒麟がみなキョウダイだとしたら、性質から言って廉麟は真ん中っ子だな、とふと感じたのですが、皆様はどうでしょう?

たぶん、長女は塙麟・・・もしくは峯麟。
長女と次女に上記の2人、真ん中に廉麟と奏麟がいて、下に采麟と氾麟。

あら、そういえば、女の子たちは世界の左斜め半分に偏っているんですね。
芳、漣、範、才、奏、巧。・・・ね?


麒麟きょうだい。案外イケるネタなのかもしれません(笑)

お次は恭か雁、いきます!(たぶん)


あとがきは抜きで、どうぞお好きな章をお持ち帰りください。





SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送